きものができるまで

自然の美を身に纏う伝統色/『日本の色辞典』吉岡幸雄著より

こんにちは。上杉惠理子です。

日本にはたくさんの色があります。この伝統色の豊かさにご興味がある方に、おすすめの本がこちら。

『日本の色辞典』 吉岡幸雄 

吉岡幸雄先生は、江戸時代から続く染屋の5代目で伝統色の復刻に尽力された方。
https://www.sachio-yoshioka.com/

残念ながら2019年秋に急逝されました。しかし、吉岡先生の技術や想いは6代目やお弟子さんたちに受け継がれています。

この『日本の色辞典』の本は、絹布や和紙に染めた色見本を可能な限り正確に本に乗せ、色にまつわるお話が盛りだくさん。

大きさの割にものすごく重い本で、最初に手にしたときはびっくりしました!印刷の方法が違うのでしょうね。

色鉛筆12色で育ってしまったからか、美術には疎かったからか、私にとって長く、赤といえば「赤」、茶色といえば「茶」でした。

私が色彩の豊かさを知ったのは、きものを着るようになってから。

化学染料が登場するまで、この国の染め職人は草木や土など自然の中から色を出し、衣類を染めることはもちろん絵、焼き物、家具、化粧…といろいろなものを染めてきました。

12色なんてものではなく、何千何万という色彩があり、この国の人たちはひとつひとつに名前をつけ、見分ける眼を持っていた。

そのチカラは今の自分にも、どこかにきっと受け継がれていると思うのです。

メルマガを書き始めて4年半となる2020年3月。色のお話をじっくりしたことはなかったなぁと思い、吉岡先生の本を参考図書に、<伝統色を旅する一週間>と題し、メルマガで連載しました。

この記事は<伝統食を旅する一週間>の連載をまとめたものです。時空を超えた旅をするお気持ちで、お読みいただけたら嬉しいです。

<本文の前に>
こちらの記事では、それぞれの色名の「色画像」は、載せていません。

色見本のサイトでもページによって、またご覧になるデバイスによっても色味が変わることがあります。そもそも、結局どれが二藍?というケースもあります^^

ここでは色をめぐるストーリーや色名のイメージを楽しんでいただき、ご興味があればぜひ書店で伝統色の本を手にしてみてください^^ 

赤の色 〜陽・火・血 生きるチカラそのもの〜 

装いの中でも、街の暮らしの中でも、ひときわ 目に留まる赤。

赤(アカ)という言葉は、太陽によって一日がアケル からきていると言われます。

まだ暗闇の世界に、地平線に赤い一筋の線が現れ、太陽が世界を照らす

一日がアケルときの太陽の赤に心とらわれたのは、人類の歴史のいつのことだったのでしょう。

そして 火 も赤。

最初は火事を起こすなど、恐ろしい存在だった火が、暖を取り、煮炊きをし、人が生きるためになくてはならないものに。

さらに自分たち生き物の、身体に流れる血も赤 ですね。

人が生きる根源をなす 陽、火、血 の赤

赤につい引きつけられ、赤に強い力を感じるのは、人間として当然のことかもしれません。

そんな赤の代表となる色が

  • 朱色(しゅいろ)
  • 茜色(あかねいろ)
  • 蘇芳(すおう)
  • 紅(べに/くれない)

縄文土器を染めた朱色

朱色は、わずかに黄がかかった鮮やかな赤。

地層から採れる赤い土、朱砂(しゅさ)で染めます。

朱砂は日本国内でも採ることができ、縄文時代から鉢に塗るなどして使われてきたことがわかっています。

朱は土だったので、朱で染められたのは器や道具類、建物の柱などでした。

衣類に赤を染めた茜、蘇芳、紅花

道具や建物に使われた朱色に対し、古くから衣類に染めた赤の代表は、茜の根で染めた 茜色 です。

日本茜で染めた茜色は、黄色がかかった赤。

茜染は手間がかかって難しかったため、中世の終わりころから、一般的になる赤は蘇芳か紅花に変わります。

蘇芳は、インド南部やマレー半島に育つ樹木。この幹の芯を煮沸した液で糸を染めると、やや青みのある赤色になります。

日本に蘇芳は育たないため、奈良時代から蘇芳を輸入し布や糸を染めてきました。

ただ、蘇芳は色褪せやすく、今も残る蘇芳で染めた染織品の多くはほとんど茶色に変色しているとのこと。染めた当初はどんな色だったのだろうと想像力が求められますね^^ 

また、蘇芳の色見本をWEB検索すると、赤というか紫に近い蘇芳色が出てきます。

これは、蘇芳は鉄で媒染すると紫色になり、江戸時代に蘇芳で染めた紫が流行ったからではないかと予想されます。

もう一つ、赤を身近にしたのが、紅花による 紅 です。

紅花は、エジプトやエチオピアが原産。中国を通じて、5世紀に日本に伝わります。

黄色の花を摘んで、黄色の色素を出した後に、赤の色素が出てきたもので糸を染めていきます。

紅花のおもしろいところは濃さ・薄さを変えたり、他の染料と掛け合わせることでいろいろな色を生み出しているところ。

紅花で染め出す色の中からいくつか濃い順に並べてみると…

艶紅(つやべに/ひかりべに)
:紅花の色素を沈殿させたもので女性の口紅・頬紅として使われた

唐紅(からくれない)
:紅花で濃く染めた鮮やかな赤

桃染(ももぞめ) 
:紅花で淡く染めた桃の花のように少し青みがかかった 明るいピンク

桜色(さくらいろ)
:桜のようにほんのり色づいた淡い紅色

他にも紅花で染めた色はたくさんあって…というか、他にも赤系の伝統色はたくさんあって…全然話しきれないのですが、赤を求め続けてきた人々の探究心をシェアできたら嬉しいです^^ 

きもので赤をまとうなら

赤のお話の最後に、私の赤のきものコーデをご紹介します♪

チカラのある赤なので、もうその色だけで十分主役。帯も無地にして柄をほとんど入れずシンプルにまとめていくのがおすすめ♪
 

紫の色 〜洋の東西共通 高貴な色〜

紫。

つかみどころがなくて魅力的な色、と私は思っています。

ちょっと濃いか薄いか、ちょっと赤味か青味かによって、本当に多彩に変わり、派手にも地味にも可憐にも色っぽくもなる。

東西ともに、限られた人だけに許された紫

そんな紫は、古来より、東西どちらでも高貴な色でした。

中国でも、そして中国の制度を取り入れた日本でも、紫は高位の人しか着ることが許されない色。

中国や日本で紫を染める方法は、紫草(むらさき)という植物の根っこ、紫根(しこん)で染める方法から始まりました。

紫草は白い花をつける草で、東日本を中心に自生していましたが今は絶滅危惧種。紫根染を残そうと活動をする人たちによって、大事に栽培されています。

紫根を細かくして熱湯を注ぎ、潰すように染液を取り出して、そこに30分ほど漬ける。数回繰り返して淡い紫に染まった色を浅紫(あさむらさき)、またはただ薄色(うすいろ)と呼ばれたそう。

そしてさらに何度も何度も染めて、黒味がかかったような濃い紫が深紫(ふかむらさき/こきむらさき)。聖徳太子が制定した官位十二階の最高位の色です。

そして遠く西へ。地中海沿岸の古代文明でも、紫は皇帝が着る色だったそうです。

こちらでは紫に染めていたのは、植物ではなく、貝でした。

アクキガイ科の貝の内臓にあるパープル腺から色素を取り出すのだそう。

ものすごく貴重で、1グラムの色素を取るために2000個の貝が必要なのだとか!!

この貝から染めた赤身がかかった紫は、ロイヤル・パープル/帝王紫、または貝紫(かいむらさき)と呼ばれています。

グラデーション豊かな紫の世界

紫の色名に二藍(ふたあい)というものがあります。

昔は一部の人しか身につけることを許されなかった紫が時代が経つにつれ、多くの人に許されていきました。

そのとき紫根染や貝紫よりは手軽な方法として、藍の青と紅花の紅を重ねて紫に染める二藍が登場したわけです。

ただ、この二藍は、重ねる藍と紅花の色の加減で色味が多彩に変化するため「この色が二藍!」と決まっていません。

また、紫根で染めた紫をもとに、京紫(きょうむらさき)と江戸紫(えどむらさき)という色名があります。

京紫は赤味寄り、江戸紫は青味寄り、いや、その逆…と諸説もろもろあって特定できないのだそう。

もうひとつ紫の伝統色の特徴が、花の名前を色名に冠したものが多いこと。

花の色に合わせた紫の色名を挙げてみると…

杜若色(かきつばたいろ)

菫色(すみれいろ)

藤色(ふじいろ)

桔梗色(ききょういろ)

楝色(おうちいろ)

紫苑色(しおんいろ)

菖蒲色(あやめいろ/しょうぶいろ)

藤袴色(ふじばかまいろ)

紫のお花って結構たくさんあるんですね〜

私見で濃い色順に並べてみましたが、真ん中4つくらいは全く見極めができません…笑

紫ってなんだかもう…つかみどころがなく、だからこそ魅力的なのだと思う。

きもので紫をまとうとき

そんな魅惑的な色、紫。

きもので選ぶならまずは、赤味がかかった紫か、青味がかかった紫かを基準に選ぶと良いかと^^

私はパーソナルカラーでSpringなので、きもので紫を選ぶなら赤味寄りで薄めの紫のほうが得意。

紫もいろいろな紫がありますから、ぜひご自身に似合う紫を探していただきたいなと思います^^

DAY3 青の色〜いつも暮らしのそばにある色〜

青というと、私は会社員時代に担当していた北海道トマムの空を思い出します。

とても鮮やかな青空が印象的で、みんなで「トマム・ブルー」と呼んでいました^^ 

空の青
海の青
湖の青…

青と聞いて浮かべるのは、自分が暮らす土地の身近な自然の風景ではないでしょうか^^

石の青 瑠璃色&群青色

そんな青の色は宝石の青から始まったようです。

磨くと濃い青に金色が浮かぶ石ラピスラズリ。

アフガニスタン北東部のバグダシャンで採掘されたものが古代から珍重され、3400年前のエジプトのツタンカーメン王の墓からラピスラズリがふんだんに使われた宝飾品が発見されています。

このラピスラズリの色が、瑠璃色(るりいろ)です。

ところがラピスラズリは細かくすると青色が出なくなり、物に染めることができません。

そこで、屏風絵などの青の岩絵具として使ったのがアズライト/藍銅鉱(らんどうこう)という石を砕いたもの。これが群青色(ぐんじょういろ)です。

布を多彩な青に染める藍

そして衣服を青に染めたのが、藍草で染める藍です。

最近は濃い鮮やかな藍の青を「ジャパン・ブルー」と言われたりするので、藍は日本の色、というイメージもありますが、古くから世界中多くの場所で藍染めが行われてきました。

紀元前3000年頃には、中国、インド、ペルシャ、エジプトなど文明の各地で藍染が行われていたと言われています。

日本にも中国から藍の製法が伝わり、奈良時代には藍の染色技法が確立します。

特に日本で行われてきた藍の染め方は発酵建というもの。藍の葉を発酵させて蒅(すくも)にし、蒅を灰汁とともに甕に入れて20度前後に保ち、これに糸を入れて染めていく。

この発酵建のおかげで、藍の草が育たない時期でも一年中染めることができるようになります^^

この藍染の甕は、微生物の塊のようなものなので毎日かき混ぜ、温度管理をが必須。自分の藍甕を持つのことは子どもを育てるようなものと、草木染め作家 志村ふくみさんがおっしゃっていました。

藍染の瞬間もとてもおもしろい。
黒に近いこげ茶のような液体の甕に糸を入れ、外に出して絞ると酸化して一気に青に変わります。

工房でこの藍染の様子を見せていただいたときの動画がこちら!

この変化がものすごく美しくて、本当にマジックのようなのです…うっとり❤︎

日本の伝統色の青の中で、藍が特別美しいのはまさにその色名です。

絹でも木綿でも麻でも藍はどの繊維にもよく染まりますが、濃い色にするには何度も何度も重ね染めをします。

その重ねた濃さによって色名が変わるのです。

薄い順に並べていくと…

瓶覗(かめのぞき):
もっとも薄い藍染。もう色素がなくなりそうな藍甕につけただけのきわめて淡い藍色。

水浅葱(みずあさぎ):

水色(みずいろ):

浅葱色(あさぎいろ):

浅縹(あさはなだ):

縹色(はなだいろ):

深縹(こきはなだ):

藍(あいいろ):

紺(こん):
濃く深く、黒に近いほど藍で染めた色。わずかに赤または紫がかかった色。 

留紺(とめこん):
紺からさらに極め付けのような濃紺

この微妙な色に色名をつけていく感性が本当に素敵だと思う。

今回、改めて調べてみて個人的に驚いたことがありまして。

こんなに「藍」と言っていますが、「藍」という特定の植物は無いのだそうです。

えっ!?

葉に藍の色素を持ち、青の染色に使われる植物の総称が、藍草or藍。

日本ではタデ科のタデアイが主に使われ、沖縄での琉球藍はキツネノマゴ科、インド藍はマメ科、南米の藍染に使われる植物もマメ科…とそれぞれの地域でよく育ちたくさん採れる藍の色素を持つ植物が
藍染めに使われてきたのです。

緑色の葉っぱに、藍の色素があり、青に染まる。

…うーん、、自然界は不思議!!!

緑の色 〜身近なのに手元におけない色〜

水に恵まれたこの国では、草木の緑色はとても身近なもの。  

緑色は 緑の葉を集めて、潰したり煮出したら、カンタンに緑に布が染まりそうなイメージがありますが…

植物の葉に含まれる緑の色素は 弱く儚く、布や糸を、葉から直接 緑に染めることができません!

自然界から緑色を直接取ることができるのは、銅が酸化してできる緑青(ろくしょう)だけなのです…!!

歴史の授業で青銅器時代、ってありましたよね^^ アレです。古くから器や絵に緑青を塗ることで緑を出してきました。

緑青色(ろくしょういろ)とは、この銅の化合物である緑青のように明るいパステル調の青緑色です。

自然から直接緑を取り出すことは難しい。それならと、藍の青と黄色の染料を重ねて染めることで布や糸に緑を表現してきました。    

絶妙なバランスで 身近ないろいろな緑を布に染めたのです。

植物の名前がついた緑の伝統色を挙げると…      

蓬色(よもぎいろ):ヨモギの葉のような緑

柳色(やなぎいろ):春先の柳の葉のような淡い黄色がかかった緑

木賊色(とくさいろ):シダ植物の木賊の茎のような少し黒みを帯びた深い緑    

若竹色(わかたけいろ):若竹の爽やかな緑

青竹色(あおたけいろ)  成長した青竹の幹のように明るく濃い緑色

苗色(なえいろ):初夏の田んぼで見られる成長した稲の鮮やかな緑

若苗色(わかなえいろ):田んぼに植えられたばかりの稲の苗のような、淡い黄緑色      

松葉色(まつばいろ):松葉のような濃い黄緑色    

千歳緑(ちとせみどり):不老長寿の象徴のようにいわれる常盤の松の葉のようなくすんだ緑

常盤色(ときわいろ):松や杉など常緑樹の「常磐木」のような、やや茶を含む深い緑

ほんっと、いろいろな緑がありますね^^

日本にいると一年中、草木の緑を目にしますが、世界を見渡すとそれは当たり前ではありません。

私にとっては学生時代アフリカのエチオピアで 遊牧民族が暮らす乾燥地域に 連れて行ってもらったときのことを今も思い出します。

草一本、芽を出すのが大変な地域で強い風に砂埃が舞うなかで、ぽつんと植えられたか細い木の苗を大事に育てていました。

あの景色は私にとって強烈でした。          

平和の色でもある緑。

多彩な緑がある日本の伝統色の豊かさをまずはじっくり味わいたい。

黄の色〜花の鮮やかさをそのままに〜

黄色を代表する伝統色というと、何色を思い出しますか?

私は、山吹色(やまぶきいろ)です。

子どもの頃に使った12色の色鉛筆にも、黄色は「やまぶき色」と書いてありました。

山吹はバラ科の低木で、桜が終わった頃4〜5月に黄色い花を咲かせます。日本原産の植物で、印象的な鮮やかな黄の花を咲かせるので万葉集でもうたわれ、源氏物語にも山吹の素敵なシーンがあるとか。

山吹色=黄色、と勝手に思っていましたが、実際にはわずかに赤みがかかった黄色。

この連載の主要参考文献である吉岡幸雄先生の『日本の色辞典』では

支子(くちなし)の実を煎じて染め、わずかに蘇芳を重ねると赤味が加わり山吹色にふさわしい色合いになる。

『日本の色辞典』

と書いていらっしゃいます。

支子(くちなし)も日本原産の低木で初夏に白い花をつけ、秋に赤橙の実をつけます。

実が熟しても口を開かないので「口無し」と呼ばれるようになったとか。

この支子の実で布を染めると黄色に染まります。支子だけで染めた鮮やかな黄色は黄支子色(きくちなしいろ)と言います。

支子色(くちなしいろ)というときは紅花や蘇芳など赤の染料を重ねて実の外見に合わせた赤橙の色をさすそう。

支子だけの黄色は黄支子色で
支子に赤を重ねると支子色…
……ややこしい笑

また、きものの世界で草木染で出てくる黄色が、刈安色(かりやすいろ)と黄蘗色(きはだいろ)です。

刈安はススキのような植物で、この草を刈って煎じた液に糸をつけ、椿の灰の上澄み液で媒染すると黄色に発色するそう。

黄蘗はミカン科の木で、幹の皮を剥いだ内側のコルク層を煎じて染めて出す鮮やかな黄色。

黄蘗で染めると虫除けになるそうで、和紙を黄蘗で染めて仏教の経典など大事なことを書いたそうな。すごい知恵ですよね!^^

この黄色の訪問着はまさに山吹色。

和裁士だった私の母が、二十歳の頃に初めて自分で仕立てた訪問着。お兄さん方の結婚式にきていたもの。なかなか普段着にならない…笑

山吹色は赤味があるからこそ、色の存在感が出るのかと改めて感じました^^

黄色は気持ちを明るく元気にしてくれる色でもあり、脳の働きを良くし、情報収集能力を高める色でもあるそう。

黄色のきもので周りの方までも、元気にしてあげてください^^

黒の色・茶の色 〜江戸のお洒落 百鼠四十八茶〜

戦国の世が終わり、町人文化が華開いた江戸時代。どんどん町人が豊かになり、一般庶民が装うきものもどんどん華やかになった時代。

士農工商の一番下にみなしながら、豊かになる一方の町人に対し、江戸幕府は奢侈禁止令を出して、紅、紫、金糸銀糸、総鹿の子絞りなど華やかで贅沢な きものを禁じました。

町人たちは表向きは幕府の禁令を受け入れ、表向きには地味なきものを着るようになったのですが…

茶色や墨色に様々な変化をつけ名前にこだわりおしゃれを楽しみます。

これを象徴する言葉が

百鼠四十八茶(ひゃくねずしじゅうはっちゃ)

鼠(ねずみ)色系は、白から黒まで赤味がかかったもの、青味がかかったもの、黄色がかかったもの…と多彩に100色

茶系もベージュから濃い茶、緑がかかったものや、濃い紫に見えるようなものまで48色

実際にこの数があったのかは定かではないそうですが、それくらい多くのグレーや茶があったという言葉です。

「見ろ!俺の このグレー!かっこいいだろう♪」

「あの人のきものの茶色、初めて見たわ!」

…なんて会話をしたのでしょうか?^^

装いは、メッセージであり、きものは、最高の自己表現ツール。

江戸の人々にとってもおしゃれは他の人と違う、自分らしさの表現だったからこそ、百鼠四十八茶が生まれたのだと思います。

というわけで黒系・茶系の伝統色は、たくさんありすぎてほんっとうに語りつくせません!!笑

名前と呼び方、そして漢字の当て方だけでもまずは味わっていただけたらと、鼠色系の伝統色を挙げると…

銀鼠(ぎんねず)

梅鼠(うめねず)

藤鼠(ふじねずみ)

白鼠(しろねずみ)

葡萄鼠(えびねず)

丼鼠(どぶねずみ)

鳩羽鼠(はとばねずみ)

利休鼠(りきゅうねずみ)

深川鼠(ふかがわねずみ)

…「ねず」か「ねずみ」かだけでも統一してほしい!! 笑

そして茶の色名をいくつか挙げると…

唐茶(からちゃ)

樺茶(かばちゃ)

団栗色(どんぐりいろ)

胡桃色(くるみいろ)

蝉の羽色(せみのはねいろ)

柿渋色(かきしぶいろ)

栗色(くりいろ)

栗皮色(くりかわいろ)

白茶(しらちゃ)

生壁色(なまかべいろ)

団十郎茶(だんじゅうろうちゃ)や芝翫茶(しかんちゃ)など、それぞれの歌舞伎役者が愛した色にその名前をつけた茶色もありこれも素敵だなぁと思います^^

江戸の人のレベルまでは先が長いですが、色彩の豊かさを味わえる人でありたいなと改めて思います。^^ 

金の色・銀の色 〜平安、繁栄への祈りを色に込め〜

「黄金の国 ジパング」

イタリアの旅行家マルコ・ポーロがこの東の島国をこのように書き記した話は有名ですね。

21世期の現代では忘れそうになりますが、日本の金の生産は、東大寺の大仏建立の頃に始まり、各地に金鉱があり、江戸時代中頃まで日本は金に恵まれた国でした。

きらびやかな生活をしながら、どこかに不安を抱えていた平安貴族は極楽浄土を願って寺を建て、金の仏像を作ります。

戦国大名にとっては自身の権力を示すために、城の中や道具類にきらびやかな金の装飾を施しました。

特に、木で作った台に、漆を塗り、さらに金を「蒔く」、蒔絵(まきえ)の工芸品はヨーロッパ人の心を捉え南蛮貿易で多く輸出されました。

金の輝きは、洋の東西問わず人々を魅了し、ときの権力者は金の力を借り、手元に置きたいと願った色。

金の性質のひとつに、どの金属よりも薄く伸ばせる、というものがあります。

1gの金を叩いて薄く伸ばしていくと、1m四方まで広がりこのときの薄さが0.0001mm…(想像つかない…!!)

こうして薄く伸ばしたものを金箔として きものにあしらったり、身につけてきたというわけです。

太陽のように輝く金に対し、銀の美しさは月に例えられます。

銀は酸化しやすく、時間が経つと黒ずんでしまうため、人々の暮らしに使われるようになったのは金よりも後だったそう。

戦国大名の時代から、日本では金糸・銀糸が作られきものや帯に織り込まれたり、刺繍に使われたりしてきました。

本物の金でできた金糸はもうないんだろうな…と思っていたのですが調べてみたらありました!!

京都の寺島保太良商店さんです。
http://www.terayasu.com/koutei.html

和紙に漆を塗って、その上に金箔を乗せ、ほそーく切って糸にする本金糸!!…すごいなぁ〜〜〜!

日本の伝統色の豊かさは、自然の豊かさそのもの

<伝統色を旅する一週間>7日間の連載のまとめ記事、お付き合いいただき
ありがとうございました!

「人が古来より美しいものに憧れ求め続けてきたのは、眼に映ずる自然の移ろいを身近に引き寄せたいと願うからである」

これは『日本の色辞典』の冒頭にある吉岡先生の言葉です。

日本の伝統色の豊かさは、日本の自然と季節の豊かさがあってこそ。

伝統色を知り学ぶということは、この国の自然・風土を学ぶことであり、そしてその中で生きてきた、人々の感性を学ぶこと。

自然をまっすぐに見つめ、多彩な色彩の変化をつかみ、その色を布や糸に再現しようと染めていく…色に関わってきた人たちの熱くまっすぐな視線を感じます。

今、私は何を見つめているんだろう?

見つめるべきものを見つめているのだろうか?

そんなことを思いながら、この記事を締めたいと思います。

最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。

和創塾
〜きもので魅せる もうひとりの自分〜
上杉 惠理子

 


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