こんにちは。
上杉惠理子です。
今日は読者さんからいただいた
こちらのご質問にお答えします^^
色無地・江戸小紋の紋について、紋のない着物をセミフォーマルに、紋のある着物をカジュアルに着るのは、マナー・ルール違反でしょうか。上杉さんはどうされてますか?
ご質問をありがとうございます^^
実は、家紋ってとてもおもしろいのです^^
この記事では改めてじっくりと、家紋ときものについて書いてみます。
そもそも紋ってなんだモン?
それでは早速最初のテーマ♪
そもそも紋ってなんだモン?
…こう書くと、フォーマルな紋がくまもんみたいでかわいい笑
家紋の歴史をざっと辿ってみましょう♪
紋の始まりは、平安時代。
貴族が「これは私の車である〜」と牛車に目印をつけたのが始まりと言われています。
みんな同じような車でお寺にお詣りしたりお出かけするので、見分けがつくようにしたとのこと。
ですが、それよりもずっと前から「これは私のものだ!」と見分けをつけるために印をつける習慣があったと言われます。
そして日本人は模様が好き。
縄文時代の縄文土器から多様な模様を入れていたルーツがあります。
人と物を結び付ける記号が紋の始まりで、さらに模様好きな感性が紋の文化を育ててきたと言う説があります。
その後、戦国時代を挟む武家の時代には、戦で敵味方を判別する目印として
実用的な理由で紋が使われます。
同じ頃、中世の頃から刀剣や器などの作り手が、自分が作ったものだとわかるように、また商人が自分の商品とわかるように目印として家紋を使うようになります。
支配階級の武士が家臣や関係の深い商人に、自分の家の紋を与える(使用を許す)ということもよくあったそうです。
そして戦のなくなった江戸時代、紋の文化は最盛期を迎えます。
江戸時代には武士はもちろん、町人まで多くの人が紋を持つようになります。文字は読めなくても、紋の図ならみんなわかるので実用的だったのでしょうね。
きものや暖簾、家具や髪飾り、化粧用の筆やらとにかくいろんなものに紋を入れました。祝祭日は紋日と呼ばれ、この日には家紋を入れた提灯や幕を家の前に飾り、紋が街に溢れたのです。
江戸時代は洗練された紋が完成し、遊びの紋もたくさん生まれました。
そして明治に入ると、農民など一般庶民まで紋が広がったという歴史があります。
日本の家紋と西洋の紋章はだいぶ違う
調べれば調べるほど、日本の家紋文化は独特です。
まず、みんな一般庶民まで家紋を持っている。
西洋にも紋章の文化がありますが、王侯貴族に限定されます。権威の象徴であり、紋章を持つ人は限られていたのです。
また、西洋の紋章と日本の家紋では描かれるものが違う。
ヨーロッパの王侯貴族の紋章は、ライオンや鷲、蛇、剣など人を威嚇する動物や物が描かれることが多い。
一方、日本の家紋は、身近な草花や虫、雲や雪など自然のもの、扇子や杵など生活の道具類が描かれます。
そして、日本の家紋は小さくてシンプルなのに多様。
今、私たちがきものに入れる紋は女性もので直径2cm程度。この範囲におさまるデザインが20,000種もあると言われています。
実際の図はこちらのサイトがいろいろ載っていておもしろいです♪
「WEB家紋帖」>> https://kamondb.com/
「細輪に二つ重ね松」「丸に並び三本杵」などなど紋それぞれに名前がついています。上絵師と言われる紋職人はその名前を言われたら、絵柄がわかったそうです。
しかも上絵師は定規とコンパスのような道具だけで作図をしたそう。絵描きさんというよりも数学者のようなアタマの良さを持っていたようです。
また、日本文化と言われるものの多くが中国に起源を持ちますが、家紋の文化は中国にはありません。
家紋文化こそ、日本文化の象徴と言えるかもしれません。
現時点でのきものの紋3つのルール
次にこの家紋が、きものではどのように使われているのかをまとめます。
ややこしいお話に感じたら、「ほ〜そうなのね〜」「うちのきものは、どれにいくつ紋が入ってたかしらねぇ〜」とまずはサラリと読んでいただけたら嬉しいです^^
ということで、紋の基本ルール3つをお届けします^^
ルール1)数が多く、白抜きして染めるほど格上
たくさん紋が入っているほど、きものは格上になります。
が、何個でも入れていい訳ではありません。
1つ、3つ、5つの3パターンしかありません。
しかも
ひとつ紋を入れる
= 衿の下の背中心
3つ紋を入れる
= 衿の下の背中心と、左右の後ろ袖
5つ紋を入れる
= 衿の下の背中心と、左右の後ろ袖と、左右の正面胸
…と入れる場所がはっきり決まっています。
5つ紋が最も格上、ということになります。
私のラッキーナンバーは7だから7個♪胸元にひとつ♪…ということはしません。(やろうとしたら、きもの屋さんに止められるかと笑)
そして、紋の入れ方によっても格が変わります。
- 染抜き日向紋:家紋を染め抜く方法(元の白生地の白が家紋を描く)
- 染抜き陰紋 :家紋の縁だけを染め抜く方法
- 刷込み紋 :染め上がったきものに、別の色で家紋を上から染める
- 縫い紋:染め上がったきものに、刺繍で家紋を縫い付ける
- 貼り付け紋:紋の形に作ったワッペンみたいなものをあとからくっつける
と大きく5パターンあり、① → ⑤ の順番で格が下がっていきます。最も手間がかかる、白生地の色を出して染め抜く方法が一番「格」が高いのですね。
ルール2)紋を入れられる きものは決まっている
紋には入れる数と位置が、決まっていると書きましたが、どんなきものにも入れて良いわけでないのがまたおもしろいところ。
5つ紋を入れるのは、黒留袖または黒紋付のみ。
3つ紋を入れるのは、今は色留袖くらい。
1つ紋を入れられるのは、色留袖、色無地、江戸小紋の鮫
色留袖は3つにして1つにするか、着るシーンやワードローブに合わせて選ぶことになります。
江戸小紋は、どんな柄の江戸小紋でも紋を入れて良い訳ではなく、紋を入れるなら鮫小紋という古典柄に限定されます。
訪問着・付下げは以前は紋を入れていたそうですが今はほとんど入れません。礼装というよりも社交着、という意味合いが強いのでしょうね。
▼きものの種類についてはこちらのブログ記事もご参考に。
ルール3)「正式な場」には紋付がふさわしい
さて、この紋付のきもの。
江戸時代の武士などは、正式の五つ紋のきものでお城に上がり、おつとめをしていたわけです。
明治に入って洋服が実用的となり。政府が「衣服令」を出します。
官僚や軍人に対しては「正式な場所では洋服を着用」することとし、
一般庶民に対しては、きものを着る場合「正式な場所では紋付を着用すること」としたとのこと。
明治時代は法令で決まっていたのですね!
今はこの法令はもちろん廃止されていますが、「正式な場は紋付」が慣習として残っています。
現代の「正式な場」というと
①神様に御目通りが叶う正式参拝
②結婚式、成人式など人生の節目となる通過儀礼式
③式典、表彰式などビジネスフォーマル
このあたりが正式、ということになります。
*②③は会場の格や主催者の意向によって、服装もカジュアルダウン可能な場合があります。
茶道の世界では、また少し変わってくるのがおもしろいところ。
古希など歳祝いに3つ紋の色無地をお召しになったり、初釜に紋付の訪問着を着る方もいらっしゃいます。
通常のお稽古にも、ひとつ紋の色無地が重宝されますが、無地の紬に紋を入れて着る方も多かったとか。
三つ紋の色無地やひとつ紋の訪問着や紬がタンスから出てきたら、茶人の方なのだなと想像されます。
お茶席のきもの選びは流派や先生の意向、それぞれの茶席の趣旨によっても
変わることなのほんとうに奥が深いですね!!
「式」に紋なしはルール違反?普段に紋アリはNG?
ここまで家紋の歴史やきものでの紋付のルールをまとめてみました。
ここからは最初のご質問のように、この紋付のきものたちとどのように付き合っていくかを書いてみます。
「正式な場では紋付で」と言われる、きものの世界。
正式な場に紋付でないと失礼?
紋付のきものがないと、きものを着てはいけないの??
正式ではない場に、紋付でないとNGなのか?
紋付のきもので行ったらダメ?
…いろいろと疑問があるかと思いますが、私の考えは「できる範囲で守ればいい」
結婚式の新郎新婦の親御さん、お葬式の喪主など、フォーマルな場で人を招く立場で装う場合はしっかり紋付をおすすめします。
ですが、参列の立場や家族でのお祝いごとの「式」なら自分で決めたら良いと思う。
紋付きのきものの方がピシっと背筋が伸びますし、御先祖様が守ってくれる気がする。
紋付を持っているなら、フォーマルシーンではぜひ着たら良いと思う。
ですが、訪問着を選んだら紋がないのが今は普通。
お子さんの七五三や入卒式に色無地を着たいけれど紋がないわ…ということであれば帯を古典柄にするなど、別のところに正統派なアイテムを入れてはいかがでしょうか。
ルールといっても、明治の頃のように法律で決まっているわけではないのですから^^
一方で、正式ではないカジュアルシーンでの紋付は??
紋がついているから着れない…とタンスに仕舞い込むなら、紋付でも着たら良いと思います。
私は母の色無地が好きでひとつ紋が入っていましたが、名古屋帯を締めて週末ちょっと出かけるときにも着ていました。
紋付を普段着に着るのはNGというよりも、「もったいない」と思われるようです。
ですが、タンスに仕舞い込んでいる方がもったいないじゃない?^^
あとは、紋付きは、周りの方にもしかしたら威圧感というか気を使わせちゃうかもしれないので、ストールや羽織で目立たなくするという気遣いをしたら良いのではと思います。
これから色無地を仕立て、紋付をひとつ持とうと思ったら染め抜きではなく縫い紋で入れるのもおすすめの方法です。
▲我が「上杉」の紋を縫い紋で。
きものと同系色の糸で家紋を刺繍する縫い紋。染め抜きよりもさりげなく紋付の礼を示すことができます。
色無地のお話はこちらにもまとめています^^
きものは家紋を身近に持てる唯一のツール
家紋をつけることは、魔除の意味もあるそうです。
特に背中につけることで、邪気を払うという意味があります。
また、お葬式に皆が紋付で参列すると、それぞれの御先祖様が家紋を目印に来てくれて、亡くなった方を迷わずあの世に行くのを助けてくれる。だから紋付で来てもらうのが嬉しい、という意味もあるのだとか。
家紋の意味を辿ると、家系の歴史などもわかったりします。
私も苗字が「上杉」なのですが、家紋を見て、上杉謙信公とはだいぶ違う上杉なのだとわかりました^^(違う、ということも紋からわかるという笑)
家族との繋がりやいろいろな意味を持たせて、日本の人たちの暮らしに共にある家紋。
デザインとしても洗練され完成度が高く、世界のデザイナーたちからも注目されているそう。
こんなに豊かな歴史とデザインを持つ家紋ですが、今となっては自分の家紋を入れるのは墓石ときものくらいでしょうか。
私は家紋っておもしろいな、素敵だなと思うので、きものに入れて大事にたくさん着ていきたいと思っています。
冒頭のご質問に対しては、私は着ること優先派で自分で決めたら良いよ^^という感じです笑
着る着ないの言い訳を紋のせいにしない、ということでもあります。
ご自身のルーツの手がかりであり家族との繋がりを感じる家紋。私自身もきものに載せて大切に、身に纏っていただけたらと思います。
和創塾
〜きもので魅せる もうひとりの自分〜
上杉 惠理子
*参考文献*
泡坂妻夫『家紋の話』(角川ソフィア文庫)
木村孝『きもののしきたりと着こなし 礼装・盛装・茶席のきもの』(淡交社)
金沢康隆『江戸服飾史』(青蛙房)