こんにちは!上杉惠理子です。
先日、読者さんからこんなご相談をいただきました。
約40年前、母が嫁ぐときに母の母(祖母)が選び仕立てた色無地があります。レースのようなきれいな地紋が入っていますが、鮮やかなオレンジ色が派手な気がして袖をほとんど通さないまま、タンスに眠らせていました。
今回、母と色々相談して、この色無地を染めかえよう!ということになりました。
母と私、二人とも着られる色にするか、私の好きなのにするか… 迷っているところです。
地模様がキレイらしいので、濃い色もいいのかなぁと。どう思われますか?
色無地のきものを染め替えよう!
でも何色にしよう!?というご相談ですね♪
色無地の染め替えは、色選びだけでなく、他にも考えることがあります。
染め替えをするということは、きものを一枚、オーダーメイドであつらえるようなものなので全部やってみると、きもののことが かなりわかるようになります。
そこで今回はじっくりと、色無地の染め替えについてまとめました。
色無地ってどんなきもの??
まず、色無地(いろむじ)というのは、きものの種類の一つ。その名の通り、
白生地を一色で染めした きもの。
「無地」と言っていますが、ただ平面に織った白生地ではなく、柄を織り込んだ生地を使うことが多いことも特徴です。
この織り込んだ柄のことを地紋(じもん)といい、それこそ色無地によって様々な柄があります。
無地なのに、柄が浮きあがり立体感がある♪ とてもおしゃれなきものなのです❤︎
ちなみに、地紋がないシンプルな縮緬で落ち着いた色の色無地をつくることもあります。そうすると、慶事だけでなく弔事(お通夜など)にも着ていくことができます。
地紋があっても一見無地なので、帯にどんな柄を合わせても「合わない」ことがまずありません。着まわし力バツグン!!
さらに帯合わせによって…
フォーマル:
結婚式参列、お子さんの入卒業式など
セミフォーマル:
季節のパーティや記念日ディナーなど
ソーシャル:
お茶席、観劇、お食事会など
デイリー:
美術館巡りなどちょっとお出かけ♪
…とTPO幅広く着られるのが色無地。
私のこの5枚のインプレッションフォトが、同じ色無地を5パターンに着まわした例です。
お気に入りの色無地が一枚あれば、コーディネートも楽だし、いろんなシーンに着ていける!!
ファーストきものとしても色無地は とってもオススメです。
色無地を染め替えるってどういうこと??
この色無地、最近はポリエステル素材もありますが、基本は 絹 で できています。
きもの一反、約3000頭のお蚕さんの繭から糸を引き、その生糸を使って布にするわけです。(3000、、ですよ!!!)
ポリエステルは石油でできてますね。木綿や麻は植物だからセルロース系。絹はというと、たんぱく質です。
たんぱく質でできている絹のきものは、私たちの髪のカラーリングのように、染め替えがしやすいのです。
ただ、柄を描いたきものだとその柄を全部消してしまうか、柄部分が染まらないよう糊で伏せて…というような手間がかかる。
色無地はその点、柄を染めていないので、染めかえをしやすい きものです。
実際に染めるときは
より濃い色を重ねる方法
または、
白生地に脱色してから好きな色を載せる方法
とふたつあります。
私が脱色して染め替えた色無地がこちら♪
鮮やかなピンクを脱色し、淡い黄緑色に染め替えました。もともとピンクだったなんて思えない見事な変身!ただ生地に負担がかかるので、脱色は1回だけが良いです。この色無地は次に染め変えるなら濃い色を重ねようと思います。
この染め替えた色無地を着て、詳しい経緯をお話した動画がこちら。
染め替えるタイミングは?
染め替えの理由はそれぞれですが例えば…
・譲られた色無地を、好きな色に変えたい!
・若いときはよかったけれど、年を重ねて落ち着いた色に変えたい!
・シミがいっぱい出ちゃった!シミ抜きするなら上から色を乗せて染め替えちゃおう!
・長く保管していたら、色焼けしちゃった…!!全体を染め替えちゃおう
というケースがあります。
色無地の染め替えを頼むときに考えること
それではここから実際に、染め替えを頼むときに考えるポイントをまとめていきます。
こちらが考えていなくても、お店から「***はどうします?」と聞かれそうなことも含めると…
1)色を何色にするか
2)仕立てのサイズをどうするか
3)紋を入れるか、入れるなら何紋にするか
4)洗い張りを追加するか
5)ガード加工を追加するか
だいたいこのあたりです。順番に書いていきますね^^
1)何色に染め替えるか
雑誌やネットで色を探そう!
染め替えですから、まずは何色の染めるかを決めます。
雑誌などから色のイメージを見つけ、 「こんな色の色無地にしてください」と、その資料をお店に持っていくことをおすすめします。
その資料をベースにお店にある色見本から探して、実際にその色にできるかどうかじっくり相談していく。
気をつけたいのは、お店で小さな色見本だけ見て決めないこと!
お店で色見本を用意してくれていることも多いですが、2cm X 3cmほどの小さな布であることがほとんど。
きものは思っている以上に布の分量が多いので、小さい見本だけ見て色を選ぶと「思っていたのと違う…!」となりがち。
きものビギナーさんは、きもの雑誌やネットで、モデルさんが色無地を着ている写真をたくさん見てみると良いですね。
和創塾で私が生徒さんに色無地の色選びを相談受けると、パーソナルカラーのドレープ(B4サイズくらいの大きさ)を お顔に当てながら「これ!」と決めてからその色見本をお店に持っていきます。選んだドレープ一枚を、そのままお貸ししたこともありました^^
淡い色にする?濃い色にする?
一枚目の色無地を選ぶなら、私は比較的淡く明るい色をお勧めします。
洋服の感覚で紺や茶など濃い色を選ぶと、きものではものすごく重く地味になるんですよ。。
また、帯合わせを考えても、淡い色の色無地なら黒地から白地までどんな色の帯も合います。
濃い色の色無地は白など明るい色の帯を入れないと、これまたものすごく重くなるのでコーディネートの幅が広がりにくい。
黒地の帯を合わせても重く暗くならない程度の濃さまで。これ大事です。
ご自身の肌と合うパーソナルカラーがわかっている方は、パーソナルカラーの中からぜひ選んでくださいね♪♪
着るシーンから色を選ぶ考え方
そして、着る環境の光の具合で色無地の色の印象が全く変わることも書いておきますね。
例えば。私のこのサーモンピンクの色無地。
明度が高い(白が多い)パステルカラー系の色は、ちょっと暗い屋内でもはっきり色が出て明るい印象になります。
ですが、屋外やプロフィール写真の撮影で光が当てすぎると、色が飛んで印象がぼやけます。
また、このエメラルドグリーンの色無地は緑系の彩度が強いタイプ。
リアルで見ると、かなり濃い!派手!だからこそ光を当てても色が飛ばないというメリットがあります。がっつり光をあてる撮影や、照明キラキラのパーティシーンで重宝します。
さらに、このトルソーが着ているモスグリーンの色無地は、明度が低い(黒が入る)落ち着いた色。
屋内の落ち着いた照明では地味になりがちですが、屋外や明るい照明に当てると明るくなります。
明度、彩度の違いについてはこちらのブログがわかりやすかったのでリンクを貼っておきますね。>>http://harmonycolor.hatenadiary.jp/entry/2014/06/07/133917
つまり。
落ち着いた照明の屋内で着ることが多くなるなら、パステルカラー寄りの白が多く入った色がおすすめです。
屋外やパーティ会場など、光が強いシーンで着るなら彩度が高めの色を選んでも派手なようで意外と大丈夫です。
どういうシーンで着ることが多いかどうかですよね。
裏地の色の決め方
裏地がある袷(あわせ)の色無地なら、基本は
裏地も表地と同じ色に染めます。
なぜなら、色無地は表地と裏地の色が違うとカジュアルダウンするから。
フォーマルからカジュアルまで、TPO幅広く着るためにも裏表、同色をおすすめします。
2)仕立てのサイズをどうするか
染め替えるときは基本、きものを全部ほどきます。ほどいて8枚の四角い布にして、裏地も外してから染めていきます。
というわけで、染め替えは貴重なお仕立て直しの機会!!
自分のベストサイズで仕立てなおしましょう!
マイサイズの決め方は、すでに きものを着ている方なら、今自分で一番着やすいと思っているきものをお店に持って行って全部測ってもらう。 (自分で測れたら尚良し!^^)
そして、「身丈はもうちょっと長いほうがいい」「裄はもう少し短く」と伝えて、調整してもらってから仕立ててもらいます。
仕立てたらそのサイズ表をきちんと手元にもらって、出来上がったものを着てみて、次はこうしたいなと考える。
そうやって何度か仕立ててみて、自分のサイズを決めていきます。
さらに言えば…
細身の方は抱き幅を入れるかとか
繰越を多めに入れるかとか
裄はどれくらい長くするかとか
こだわれる仕立てポイントがいろいろあります。
きものや浴衣のサイズの決め方は、こちらにまとめています。
また、仕立てるときには、ミシンではなく、
手縫い で仕立ててもらってください。
ミシンで仕立てると、次に仕立て直しができなくなります。
ミシンは針穴が大きく、解くと針穴がはっきり出てしまい塞ぐことはほぼできません。そもそもミシン縫いは、解きにくいため、解く代が上増しされたり、そもそも断られたりします。
また、きものは手縫いだからこそ程よいストレッチが効いて、直線裁ち、直線縫いの衣装が曲線の身体に合うものです。
染め替えをしようとするほど良い絹のきものですから、この先何十年も着続けることを見越して、手縫いで仕立ててくださいね。
3)紋を入れるか、入れるなら何紋にするか
日本には家紋の文化があります。
欧州でも紋章文化はありますが、貴族階級に限られ、日本のように一般民衆までみんなが家紋を持つのは世界的にも珍しいこと。今もきものや、結婚式の暖簾、墓石に紋を入れる文化があります。
▼きものの紋について詳しくはこちらにまとめています。
色無地で考えることは
背中に一つ紋を入れるか入れないか。
一つ紋を入れると、フォーマルによりふさわしくなります。一方で、紋を入れると、フォーマルでしか着づらくなり、着る機会がなくなりそう…というお声もあります。
私のおすすめは
一枚目の色無地は、一つ紋を縫い紋で入れる
小さいお子さんがいたり、これから「式」ごとで着る機会がある方は紋付きがあると重宝します。
紋は入れておきたいけれど、ワンピース感覚で気軽にも着れるようにしておきたいな…というときにおすすめが、刺繍をする縫い紋のパターンです。
私のこちらのモスグリーンのきものは、きもの地より一段濃い色の糸で父方の上杉の紋を刺繍しています。
白抜きするより目立たないけれど、紋が入っていないわけではないのでTPO的にはかなり幅広く使える一枚になります^^
4)洗い張りを追加するか
「洗い張り(あらいはり)」とは染め替えのために きものを解いたときに、一枚の布にした状態で水にくぐらせて洗うこと。
長くタンスに眠っていた色無地も、一度水にくぐらせると張りが戻り、新品のように蘇ります。においも取れますしね♪
ちなみに、通常のお手入れでは きものを水につけることはありません。「丸洗い」はドライクリーニングですし、「汗抜き」は高機能な霧吹きで汗を飛ばします。絹は縮みやすいので、縫われた状態で水にくぐらせると仕立てが狂います。さらに、表地と裏地で縮み具合が違うので、一緒に水につけられないんですね。
なので、水につけてちゃんと洗う方法を「洗い張り」と言います。「洗い張り」はきものを解いて一枚の反物に戻してから洗う、という手間もかかるけど、ほんっとキレイになる方法なんです。
なかなか洗い張りをするタイミングが無いので、どうせ染め替えで きものを解くなら洗い張りもしておくととっても良いですね♪
5)ガード加工を追加するか
そして、ガード加工というのは、きもの用の撥水加工です。有名なところだと「パールトーン」とか。
ガード加工をかけておくと、小雨くらいなら本当にはじきますし、お醤油こぼしたりしてもシミに残りにくい。淡い色のきものほど、ガードをかけておいた方が安心といえば安心です。
一方で、敢えてガードをかけない方もいます。なぜなら、お蚕さんの繭からできた絹は呼吸をしている。ガードをかけるということは、その絹の呼吸を妨げることになるからガードはかけない。汚れたら潔くシミぬきに出す、という方もいます。
染め替えをお願いするお店選びで 大切なこと
染め替えをするときは、このように色、サイズ、紋、洗い張り、ガード加工…と全部決めて依頼をします。
お気づきかと思いますが、このように染め替えにはいろいろな行程・オプションがあるので、ご料金も一つずつ積むとかなりの金額になります。
- 解き代(ときだい):きものを解く料金
- 端縫い代(はぬいだい):といた布をざっくり縫い合わせて一枚の反物に戻す。紛失防止の意味もあります。
- 脱色・色抜き:もとの色を抜く場合ですね。
- 染め:「色かけ」とも言います。
- 仕立て:国内仕立てか海外仕立てかで料金やかかる期間が変わります。
- 洗い張り
- 紋入れ
- ガード加工
*③④は裏地の八掛の染め代は別料金のことがあるので要確認。また、裏地の胴部分(胴裏、と言います)もそのまま使うか、新しいものにするかお確認。
*⑥〜⑦はオプションで選択できます。
お店で「染め替え 〇〇円」と書いてあるだけなら、この金額に何が含まれているのか、必ず確認しましょう。仕立てまで全部お願いすると全部でいくらかかるのか、きちんと見積もってもらってから依頼してください。
どのお店に頼むかによって、ご料金はかなり変わります。基本の項目全部で10万円前後、が相場かな。もっとかかる場合もあります。私が今知っている限りで、最安値は5万円です。
値段も気になりますが、どこに頼むのか、お店選びで大切なことは
コミュニケーションを取れるお店を選ぶこと。
これだけ考えることがあるので、全部お店に任せることはできないし、自分で考え、選んでいくことになります。
遠慮せずにちゃんと言えるか。
わからないことは聞けるか。
お店に丸投げするというより、職人さんたちと一緒に新しいきものに生まれ変わらせていく感じですね。
染め替えをすると、まさに一通り経験するので、きものについてグッと理解が深まります。ものすごく勉強の機会になります。
ぜひチャレンジして、いっぱいお店の人にも聞いてみてください。
私は新しく色無地を買うよりも、昔のものを染め替える方が良いと思っています。
昔のものの方が、糸が良いと言われているから。
染め替え、高いなぁと感じると思いますが、新品を一から仕立てるよりもずっとリーズナブル。しかも、譲られた色無地なら家族の歴史を載せた、世界にたった一つのきものですから。
なんでもすぐに買い替えられちゃう時代だからこそ、こんな きものとの関わり方を楽しむ人が増えたらいいなと思っています。
染め替えも含め、タンスに眠るきものを生かしたい方、より詳しいご相談は個別セッションにて承ります^^
和創塾 〜きもので魅せる もうひとりの自分〜
主宰 上杉 惠理子