きものができるまで

日本人としてお蚕さんとどう生きるか/命の養蚕 insui代表 山本浩士さんとの出会い

こんにちは。上杉惠理子です。

「えりこさーん!突然ですが、来月7日にランチしませんか?ご紹介したい方がいるのですー!」

と、あっこさんから連絡をもらったのは三週間ほど前のこと。

↑左があっこさん♪

あっこさんは和創塾にも参加してくれて、今はご自身で着付けを教えたり着物の魅力を発信している方♪ 楽しいインスタを発信されています^^

▼あっこさんのインスタはこちら!
https://www.instagram.com/acco_kimono/

「行く行く〜!空いてる〜!」と6月7日にランチをしてきました^^ 

あっこさんが繋げてくださったのはこの方。

山本浩士さん。

愛知のご実家は100年続く呉服屋 株式会社 丸杉さん。着物の販売から、オリジナルの着物づくりをされ…

今、ラオスでお蚕さんを育てているとのこと!!!

さらにその繭を使った、オリジナルの肌ケア製品を開発し、販売しているとのこと!

お蚕さんのことを研究し続け、現場でものづくりをされている方のお話は本当に刺激的…!

この記事では山本さんのお話、そしてお蚕さんのことを詳しく書いてみたいと思います。

着物にも医療素材にもなるお蚕さんの恵み

教養としての着物』にも書きましたが

着物の多くは絹で作られ、絹糸はお蚕さんの繭をほどいてつくられます。

卵からかえり、桑の葉をモリモリ食べて成長したお蚕さんの幼虫は、繭を作って蛹(サナギ)になります。

この3cmほどの小さな繭から、長いものでは1500mもの長く細い絹糸を取ることができるのです。

日本では養蚕と絹織物の歴史は長く、着物はもちろん、建築や祭事などにも影響を与え、米作と並んで養蚕は日本の文化を育む土壌のような存在でした。

身近で大切な存在だったことは、昆虫であるお蚕さんを、昔から「お蚕さん」「お蚕様」と呼び、「匹」ではなく「頭」で数えたことからも窺い知ることができます。

この絹。このシルク。

絹は衣料としても素晴らしいことはもちろんのこと、医療用素材でもあります。

絹糸は人の細胞と近く、昔から縫合糸としても使われてきました。

そして今、絹から人工皮膚や人工骨をつくる再生医療の研究が進んでいるとのこと!

骨折すると手術してボルトを入れたりしますよね。繭から作った人工骨でボルトの役割をさせれば、取り出す必要なく、拒絶反応もなく治療ができるそう。

コージさんは当初、タイやインドネシアなど東南アジアで生地を仕入れてオリジナルの着物は作っていたそうです。

ランチ会にお持ちくださった、タイシルクの帯地

そうした活動の中でコージさんは、熱処理をしない生繭の美しさに魅了されます。

さらに、生体素材としての絹がこれから求められるのではと気づき、有害物質を一切含まない繭を自分で育てることにしたそうです。

有害物質を含まないということは、お蚕さんが食べる桑の葉が要。

土壌が汚染されていない本当に綺麗な土地で育つ桑の葉を求め、その場で産卵もできるもともとの自然な養蚕を求めた結果…なんと、ラオスに行き着いたそうです。

しかもラオスといっても、首都から車で15時間ほど(めちゃ遠い…!!)の南ラオス。

南ラオスに養蚕農場をつくり、地元の人たちと一緒にお蚕さんを卵から育てているとのこと。

人の肌を回復させてくれる絹の役割に着目し、ラオスで育てた有害物質を含まない「生シルク」で、肌ケア製品の開発・商品化まで実現されました…!!

こちらのサイトで、コージさんたちの生シルクを原料にした石鹸や美容液が紹介されています。

insui 命の養蚕
http://marusugi-tao.com/


OEMでオリジナル石鹸をつくるだけでも大変なのに、素材開発から全部やっているなんて…!!すごすぎる!!!

「生体素材になる繭をつくる」というイメージを、多くの人の力を得て、ここまで具現化できてしまう山本さん… こうして文章を書きながら、改めて本当にすごい方…と絶句しています。

しかも養蚕だけでなく、ラオスの森で育ったドライバナナの製品化もされていて… ほんっとすごい。。!!

コージさんご自身のnoteで、経緯も含めていろいろなお話をシェアくださっています^^

note/ kohji 南ラオス自然農園
https://note.com/laosagri/

命をいただき、矛盾を抱えながら生きる

私は着物を日常着として着ていて、絹はすごい!!と常々思っています。

軽くて丈夫で、冬はあたたかくて、光沢も美しくて、着るたびに洗う必要もない… 

絹をこうして日常着にできる着物って最高!!

その一方で、

絹は、お蚕さんの命と引き換えです。 

お蚕さんは蛹から蛾になってしまうと、繭が割れて一本の糸にはならないので、蛹の状態でお湯に入れて糸をとるのです。

実際にはすぐに糸を取れないことが多いので、熱を当て、蛹のお蚕さんを殺し、水分を取り、保存させます。

着物一枚に2700個の繭が使われている。

つまり2700頭のお蚕さんの命でできている。

私は、お肉もお魚も美味しくいただき、絹の着物や革製品を愛用し、一方で毛皮と象牙は決して買わないと決めています。

… 自分でも矛盾していると思います。

着物好きな方には「毛皮はNOで絹がOKなのは矛盾、絹の着物はもう買わない」と宣言する人もいます。そのお気持ちもわかるし、それも一つの答えなのだと思う。

命と引き換えなのは同じなのに、象牙と毛皮はNOで、絹がOKなのはどうしてなのか?

この矛盾をずっと胸に抱えてきました。

私は2016年、和装イメージコンサルタントとして起業したとき、銀座もとじさんで「着物一反分、2700頭のお蚕さんを育てる」という企画に通ったことがありました。

最初は虫が苦手で直視もできなかったお蚕さんが一日で可愛くなり、桑の葉をあげるお手伝いをし、ほぼ一昼夜で繭をつくる魔法のような光景を見て、最後自分で糸をとる座繰り体験をさせてもらいました。

湯の中で繭が解かれ、自分が桑の葉をあげたお蚕さんが、右手の鍋の中で命絶えて浮かぶ。目をパチパチして、泣かないようにしていました(今でもこれを書くとうるうるしちゃう笑)。

お蚕さんと人間の歴史は長く、人間がお蚕さんの品種改良し続けて白く長い絹糸を求めてきました。

長い品種改良の結果、現在のお蚕さんは蛾になったとしても目が見えず、飛べず、その命は短い。

しかも、品種改良されて家畜になったお蚕さんはとてもセンシティブ。

徹底して温度管理をしなければ弱ってしまうし、雨に濡れたり農薬がついた桑の葉を食べると、お腹を壊して死んでしまうそう。養蚕農家さんのお仕事は、とても気を遣うお仕事なのです。

おそらく今、最高品質の絹の品種は、私も着物で持っているプラチナボーイです。

このプラチナボーイは、雄のお蚕さんだけを羽化させる研究開発の結果、実現しました。

卵を産まない雄の繭は、雌よりも細く長い糸を吐くと昔から知られ、どうしたら雄の繭だけで絹布が作れるか長年研究されてきました。それを日本の研究者が実現させ、銀座もとじの泉二会長がその商品化に尽力されました。

泉二会長に伺ったプラチナボーイの物語はこちらの記事に書いています。

業界の常識を変え続けるきもの専門店/銀座もとじ 店主 泉二弘明様インタビュー こんにちは!上杉 惠理子です。 私の初めての著書『弱者でも勝てるモノの売り方 お金をかけずに売上を上げるマーケティング入門』 ...

また、私がお迎えしたプラチナボーイの着物についても書いてみました。

プラチナボーイの着物をお迎えして こんにちは。上杉惠理子です。 前回のブログ記事では、ラオスで自然なかたちの「命の養蚕」を実現された山本コージさんとの出会いを書き...

良質な絹糸をつくるという点では素晴らしく画期的な技術革新であり、同時に、人間がここまで自然界に手を入れていいのかとも思う。

雄だけ孵化する、つまり遺伝子操作だからです。

ですが、コージさんもこちらのnoteの記事で書いていらっしゃるように、ただ高級衣料素材として使ってきた、それだけではない歴史がお蚕さんと人間にはある。

日本にお蚕さんが伝来した神話があり、伊勢神宮には絹を奉納する祭りがある。

日々、お蚕さんが無事に育つよう願う神社も全国にある。

養蚕があり、絹布があったから、繊細な和の色や染める技法が発展した。

世界遺産の白川郷の建築は、雪深い山村で養蚕をするためにあの三角屋根になった。

また、明治には日本が絹糸の輸出世界一となるほど、養蚕はこの国の近代化を進めるための外貨収入源だった。

養蚕は日本の文化を育む土壌のような存在だったのだと、絹を調べれば調べるほど感じます。

そして日本では、「お蚕さん」「お蚕様」と呼び、「匹」ではなく「頭」で数えてきたことからも、お蚕さんは人間が支配し操る存在ではなく、日々の糧を与えてくれる神様に近い存在でした。

もとじさんでお蚕さんを育てるお手伝いをして、最後に糸とり体験をしたとき、右手側の鍋にお蚕さんの蛹が浮かび上がり、その反対側にはキラキラと真っ白に輝く絹糸が巻かれていきました。

絹糸はお蚕さんの命そのもの、絹糸は生きているんだと思わずにいられない美しさでした。

絹の着物は生きているんだ、もっともっと大事にたくさん着ようと心に決めた原体験でした。

今回、自然なかたちの命の養蚕を実現しておられるコージさんと出会い、「再生医療で絹が使える」「絹と人の細胞が近い」というお話を聞いて、お蚕さんはどこまで人間を愛してくれるのだろうと鳥肌が立ちました。

天の虫と書くお蚕さん。

素晴らしい布を与えてくれて、人の肌や骨にもなってくれる。守り神すぎやしないか。

あぁ…でも、お肉もお魚も卵もお野菜も… 私たちは食べて自分の骨肉にするのです。

自分を包んでくれる世界の優しさに、愛の大きさに、…お手上げです。

コージさんも養蚕の歴史やご自身のご経験から

「私たちは養蚕を続ける必要があると思う。これまで生まれてつなげて来た命に敬意と感謝とともに。」

「これからもお蚕さんとは共生関係を築いていきたいと思う。」

と書かれていて、ものすごく共感しました。

お蚕さんの命をいただく絹を使うか使わないか を悩むよりも、お蚕さんと、絹と、どう共に生きるか を考えよう。

着物には、作り手さんの想いや美意識ものるし、家族の思い出ものると感じるのだけど、お蚕さんと人類の歴史も刻まれているんだろうな。

その歴史には陰の面も、陽の面も、両方あるし、人間に生まれた一人としてどちらも引き受けよう。

矛盾を抱えて生きていこう、抱えてていいんだ、と改めて思えました。

絹マニアさんとのご縁に感謝♪

コージさんのお話を伺いながら、自然の恵みの、果てしない豊かさを感じた素晴らしいランチ会でした。

絹の着物… もっともっと大事にたくさん着よう。

また個人的には、山本さんとマニアックな絹の話ができてとってもうれしかったです♪

生絹と乾繭の違いとか
乾繭にするときに断面がどう変わるとか
お蚕さんのメッセージ物質の話とか

本やメルマガでは書ききれないことをたくさん話せて楽しかったーー!!!

コージさん、またゆっくりとお話させてください♪南ラオスの農園にも行ってみたいなー!!

というわけで、素敵な出会いのお話でした♪

私も山本さんの生シルクの石鹸、使ってみよう♪
これをお読みのあなたも、よかったらご一緒にお蚕さんの恵をいかがですか?^^ 

insui 命の養蚕
http://marusugi-tao.com/

それではまた^^ 

和創塾〜きもので魅せる もうひとりの自分〜主宰
上杉惠理子


Warning: Trying to access array offset on value of type bool in /home/wasojuku/kimono-strategy.com/public_html/wp-content/themes/jin/cta.php on line 8

Warning: Trying to access array offset on value of type bool in /home/wasojuku/kimono-strategy.com/public_html/wp-content/themes/jin/cta.php on line 9